映画『東京物語』の徹底レビュー

邦画の名作といえば、1953年に製作された『東京物語』を挙げる人も多いのではないでしょうか。小津安二郎監督で、笠智衆、東山千栄子、原節子、山村聰ら俳優陣が出演したこの映画は、日本映画史上における傑作のひとつとされています。

 

あらすじ

この映画のあらすじは驚くほどシンプルで、説明も簡単です。老夫婦が大都会に住む子供たちを訪ねてきますが、自分たちが必要とされていないことに気づきます。子供たち(そして孫)は、それぞれの日常に没頭するだけで、老夫婦のことを無視します。

 

両親の帰郷後、その一人が亡くなり、ホスト側だった家族が今度は両親の元に出かけることになります。 脚本は、野田高梧と小津安二郎が共同執筆しました。

 

年月を重ねれば重ねるほど味わいの出る映画

 

映画『東京物語』が公開されたのは1953年11月3日、今からなんと70年近くも前のことになります!この映画のメインテーマが今の時代にそぐわないと思う方もいらっしゃるかもしれませんが、それは違います。登場人物が大変基本的なキャラクターとして設定されていますから、どなたでもすぐに共感できるのです。

 

家族についてのストーリーですので、いつの時代でも話題性があります。さらに、何事も早く進む現代の世の中であるからこそ、子供が親との時間を持てなくなっている理由についても分かりやすいのです。

 

さらに、『東京物語』は「仕事」と「死」という2つの大事なテーマにも触れています。ゴシップやその他の気が散るものに溢れすぎていて、家族関係が壊れてくるのです。これが戦後日本の姿であり、1950年代から現在も変わっていないといえるでしょう。

 

ビジュアル

現代の観客にとっては、モノクロ画面やモノラル音声が少し見づらいと感じられるかもしれません。ですがそれによって小津氏の天才的な表現が損なわれることはありません。映画の冒頭で、ほろ苦い音楽と船のエンジン音が遠くから聞こえてきます。これから起こるトラブルを予感させる始まりです。

 

もうひとつ、この映画の映像戦略として欠かせないのが、まったく動くことのないカメラです。ほとんどの場面で、カメラは床から1メートルのところに固定されています。これは畳に座っている人の目の高さに相当します。こうして低い位置にカメラを設置することで、奥行きをなくし、二次元空間を作り上げています。

 

平山家

 

小津氏は、機械的な編集や効果では自らのオリジナル脚本が損なわれてしまうと考え、優れた俳優を採用することにより、物語の人間的な要素を強調させることにしました。

 

そんな意味もあって、小津氏は主役の祖父(周吉)役に、自身のお気に入り俳優の一人である笠智衆を起用したのでした。

 

さらに、祖母のとみ役を東山千栄子が演じ、役に命を吹き込んでいます。東山は、60本を超える映画に出演した大ベテラン女優です。映画の中では、地味な顔をして、ふくよかな体型をしています。夫役は背が高く、やや気落ちしたような表情を浮かべています。

 

映画全体を通して、とみと周吉は簡単な言葉だけで会話し、うなずき、同意しています。これにより、平山家ではコミュニケーションが途絶えていることが非言語的に示されているのです。

 

加えて、シンプルなあらすじや控えめな視覚効果も功を奏し、この小津氏の作品は大ヒットとなりました。小津氏は、何世紀にもわたって語り継がれるような映画を撮ることに成功したのです。世の中に家族関係のこじれがある限り、平山家はいつの時代にも存在することになるでしょう。